PROJECT STORY

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トヨタのル・マン
24時間レース2連勝が
タマチ工業にもたらしたもの

喜び、プレッシャー、挑戦……進化し続ける覚悟、
世界は待ってくれない

2018年6月17日、トヨタはル・マン24時間レースで悲願の初優勝を果たしました。タマチ工業は、この快挙を裏で支えた会社のひとつです。もともとタマチ工業は、レーシングマシンの“心臓部”ともいえるエンジン部品の製作には定評がありました。トヨタからの依頼も、その技術力を見込んでのことです。まさに、「優勝」を旗印に掲げたプロジェクト。しかし、頂点にたどり着くまでの道のりは、決して容易なものではありませんでした。ここでは、このプロジェクトに関わった3人にお話を聞きました。

2012年、ル・マン24時間レースへの挑戦は始まった

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トヨタさんのWEC参戦のサポートをされるようになったのは、いつ頃のことですか。
M.Eさん
参戦開始は2012年。その数年前からの開発でした。トヨタさまから当社の上層が依頼を受けて、スタートしました。当時は私も製造部所属だったので、そんな素晴らしい仕事ができるのかと、ワクワクしたのを覚えています。
R.Oさん
私も中学生の頃にクルマが好きになって、レースにも興味を持つようになりました。ですから高校時代には整備士を目指して勉強していたんです。大学時代には、学生フォーミュラの活動も行っていました。とにかく、自動車レースに関連した仕事に就きたかったんです。2014年4月にタマチ工業に入社して、ずっと製造部で加工の仕事をしているので、その意味では中学時代からの夢は叶いました。しかも、ル・マン24時間レース2連覇という形で。
M.Eさん
R.Oさんは基本的に、クルマ好き、レース好きだから。偶然、富士スピードウェイで会ったこともあったよね。でも、T.Kさんは違うんでしょう。
T.Kさん
そう、私はモータースポーツにはまったく興味がありませんでした。「F1」という単語を知っていたくらいだったんです。ステントなどの医療部品の製作に携わりたくてタマチ工業に入社したのに、「エ〜、レーシングマシンですか〜」という気持ちでした(笑)。
R.Oさん
トヨタさんに出向したのはいつ頃でしたっけ?
T.Kさん
入社してしばらく検査の仕事をしていたのですが、2016年にトヨタさんのル・マンのプロジェクトへの出向を命じられて……。何事も経験と思って受けましたけど、レースのこともマシンのことも分からず、最初は不安とプレッシャーで生きた心地がしなかったですよ。知らないことばかりだったので、右も左も分からないまま仕事を進めなければなりません。その状況で新たな環境に馴染んでいくのは、とても苦労しました。
M.Eさん
どうやって克服したんですか?
T.Kさん
最初は、上司や同僚に支えてもらいながら仕事をしていました。たくさん迷惑をおかけしましたけれど、皆さん、優しく助けてくれて……。本当に有り難かったです。それと、タマチ工業の支えも心強かった。タマチ工業に電話をかけて、加工について質問したり、アドバイスをもらったりすることはできたので……。
M.Eさん
それは大きいよね。
T.Kさん
はい。それと、ル・マンで走るマシンの部品の設計をしているのだということは分かっていましたから。具体的な目的が見えていたのはよかったです。
M.Eさん
何に使われるのかわからないものを作るより、目的のはっきりしているもの方が安心だよね。
R.Oさん
そうそう。加工の現場では、大物部品から小物部品まで、ル・マン用の部品に関わらず、いろいろな設備で加工を行っています。製造部は、図面をもらって、その図面に忠実な部品をつくることが仕事だから。ただ、この部品はどんなモノに何のために使われるのかが分かっているのと分かっていないとではやっぱり気持ちの面でも違うと思います。
トヨタのル・マン4時間レース2連勝がタマチ工業にもたらしたものトヨタのル・マン4時間レース2連勝がタマチ工業にもたらしたもの

モチベーションは上がるけれど、他の部品と区別することはない

M.Eさん
そんなある日、製造部門にル・マン用のレーシングマシンの部品の加工依頼が来たんだよね。
R.Oさん
そうです。世界の強豪を相手に戦うレーシングマシンの部品ですから、自分が加工する部品がどういう用途に使われるものなのか理解したいと思い、上司に教えてもらったり、自分で調べてみたりしました。
T.Kさん
他のアイテムと比べ、特別感はある?
R.Oさん
自分のなかでは、ル・マン用の部品とその他の部品を分けて考えることはなかったです。ル・マン用の部品は、確かに大変です。でも、もっと加工が難しい部品はいっぱいありますから。私はどれも分け隔てなく、図面通りの部品をつくることを心がけています。なんて平静を装ってはいますけれど、やっぱりル・マン関係の部品だとちょっとモチベーションが上がりますね(笑)。
M.Eさん
クルマ好きとしては、そりゃそうだよね。でも、区別はしないという基本的な姿勢は、技術者としてはとても大事なことだと思う。私も営業部に異動してからも、製品ごとに差をつけることはしていません。ただ、世界を相手に戦うレーシングマシンの部品ですから、いっそう気を引き締めて取り回すようにはしています。それと、営業部はお客さまと接する機会が多いので、負けて悔しがるお客さまの様子を目の当たりにします。ですから、どうしてもトヨタさんに肩入れしたくなってしまうことはありますね。
T.Kさん
その気持ち、分かります。私はレースにはまったく興味がないので、負けても「そうだったんだ」と思うくらい。でも、回りは違います。すごく悔しがる。その姿を見ていると、心は動かされます。R.Oさんは、毎年加工を続けるなかで、気持ちに変化はなかったですか。
R.Oさん
最初は本当に何も気にしていませんでした。つくっている部品のひとつとしか考えていなかった。でも、2016年にトップを走り続けながら残り3分で失速して負けてしまったり、2017年は3台体制でチャレンジしたのに、深夜には2台がリタイアしてしまったり……。この頃になると、なぜ勝てないんだろうと考えるようになりました。お客さまから指摘はされていないけれど、やっぱり自分たちが加工したものに何かしらの問題があるのではないか、という不安はぬぐえなかったですね。
M.Eさん
レーシングマシンはいろいろな人たちの技術や知識が結集したものだからこそ、そこに携わる者たちの責任は重い。自分たちのミスで、すべての人たちの努力が無になってしまうこともありますから。その意味では、すごく怖いな、と思うこともあります。
R.Oさん
そうなんです。とくに精度がなかなか出せないものは、とても苦労します。いろいろとテストを重ねるのですけれど、そうすると納期までの時間がどんどん短くなってしまう。納期は待ってくれないから、ひたすらテストをして、精度を満たせるやり方を模索し続ける。その連続です。
M.Eさん
精度を満たすことができる絶対的な方法はないから、技術者はトライアルアンドエラーを繰り返すしか方法はないんだよね。でも、自信をもってお客さまに渡すことができる部品をつくれたときの達成感は、すごいでしょう。
R.Oさん
それは、もちろんです。これがあるから、この仕事は辞められない(笑)。
コラム

ル・マン24時間レースは世界三大レースのひとつで、1923年から現在まで続いている耐久レースの最高峰。毎年6月に開催され、毎回25万人以上の観客を集めるビッグイベントです。ルールは簡単。24時間ひたすら走り、24時間が過ぎたときにいちばん周回を重ねた車が優勝です。ただし、勝つのはそう簡単ではありません。ライバルと競い合いながら全速力で走るので、当然、車のエンジンやサスペンション、シャシーといった部品にストレスがかかり続けます。つまり、ル・マンに出場する車はただ速いだけでなく、24時間トラブルなしに走り続けられる耐久性も要求され、さらに、万が一トラブルが発生しても、すぐに修理して戦線復帰することも考慮された設計でなければならないのです。23時間59分までトップを走っていても、ゴール前で止まってしまって完走できなければ負け。だからこそ、ここで勝つことは、車に関わる人すべてにとって、この上ない栄誉なのです。トヨタ以外の日本メーカーでは、1991年にマツダが優勝しています。ちなみに、WECとは、FIA世界耐久選手権(FIA World Endurance Championship)の略称で、ル・マン24時間レースを含む耐久レースの世界選手権です。

優勝は嬉しい。でも、立ち止まっているわけにはいかない

M.Eさん
では、2018年に優勝したときはどんな気持ちでしたか。
R.Oさん
2016年、2017年のことがあったから、素直に嬉しかったです。レースはずっと気にしていて、夜はテレビで観戦していました。ですから、トヨタのマシンがワンツー・フィニッシュしたときは、本当に嬉しかったし、ホッとしました。
M.Eさん
自分たちが関わった部品が乗ったマシンでの優勝だったから、喜びもひとしおでしたよね。お客さまから感謝の言葉をいただき、それ以降のモチベーションにもつながっています。
T.Kさん
しかも、2019年も勝って、今は2連覇中ですからね。ところで、2018年の初優勝のときは、タマチの社内ではどんな感じだったのですか。
R.Oさん
ウチの社員だからといってみんながクルマ好き、レース好きというわけじゃないし、世間的にも「ル・マン24時間レースって何?」という風潮も強いですよね。だから、トヨタの初優勝も、優勝したマシンにウチの製品が搭載されていることも、知らない人は多かったと思います。だから、「優勝、うぉー」という派手な喜びよりも、静かに嬉しさが広がっていくという感じだったと思います。
T.Kさん
タマチには、私のような人間も多いですからね。でも、世界の精鋭たちと戦って勝ったという事実はみんなの心に刺さっていると思うし、外部の人たちから「優勝、おめでとう」と言われれば、モチベーションは上がると思います。
R.Oさん
それはそうですね。私自身、すごく誇らしい。ただ、喜んでばかりはいられないとも思っています。タマチで加工している部品のせいで優勝できなかった、ということがないようにしたいです。今までは優勝することが目標だったけれど、優勝を経験した今は、勝ち続けることが目標。そのためには、品質を保たなければいけないと思うようになりました。
M.Eさん
お客さまも新しい技術を常に求めていますから、自分たちもそれに応えられる道を模索し続けなければなりません。確かに、優勝は嬉しい。でも、そこに留まっているわけにはいかない。その意味では、嬉しさ半分、プレッシャー半分という感じですね。
T.Kさん
とくに私は、プレッシャーや不安が大きいです。というのも、私が設計した部品は、今シーズンのマシンに搭載されているからです。2020年6月に行われるレースにかかっている。だから、今はまだ、完全には喜べないんです。本当に喜べるのは、今シーズンのル・マンで優勝をして、三連覇を達成したときです。
M.Eさん
確かにそうですね。ところで、お二人にとってタマチ工業はどんな会社ですか。
R.Oさん
私が携わっている仕事は、日々、技術の進歩がある世界なので、乗り遅れないように勉強していきたい。そして、タマチ工業は、そういう私たちにたくさんのチャンスを与えてくれる会社だと思っています。
T.Kさん
同期のR.Oさんは入社してからずっと加工の現場にいて、誰にも負けない技術を身につけていますよね。
R.Oさん
うん、誰にも負けないよ(笑)。
T.Kさん
でしょう(笑)。でも、私は違います。検査の仕事をしたり、レーシングマシンの部品の設計をやったり……。タマチに戻ってきてからは、おもにロボットアームを活用して、無人運転ができる環境づくりを行っています。浅く広く、いろんな経験をさせてもらっていて、それが私の強みになっている。これからもさまざまな業務に積極的に取り組み、それらを自分の知識・経験として蓄えていき、これから携わる業務に少しでも関連づけて、良いものを創っていきたいと思っています。幅広い業務に携わることができてとても嬉しいし、タマチ工業は、チャレンジする機会をたくさん与えてくれる会社だと思っています。
M.Eさん
そうですね。私も、個人の発言力や実行力が尊重され、認められる風潮にはやりがいを感じています。個人的には、自社ブランド、タマチ・ブランドをつくりたいですね。そして、タマチ工業の技術力や経験値、創造性などを広くアピールしていきたいと思っています。でも、これは将来の話。まずは、ル・マン24時間レース、3連覇してほしいですね。
このプロジェクトに関わった社員紹介
  • R.O

    製造部マシニング製造課所属

    • 2014年入社 西富士工場製造部に配属
    • 2015年より カバーシリンダーヘッド製造を担当
    • 2016年より WECプロジェクト参加 インペラー、ボディースロットル等を製造
    R.OR.O
  • M.E

    営業部所属

    • 2004年入社 西富士工場製造部に配属
    • 2009年より ヘッドシリンダー、カムシャフト製造を担当
    • 2015年より WECプロジェクト参加 カムシャフト等を製造
    M.EM.E
  • T.K

    製造部生産技術課所属

    • 2014年入社 本社工場製造部に配属
    • 2015年より トヨタ自動車東富士研究所へ出向
    • 2016年より WECプロジェクト参加 ハイブリッド部品の設計を担当
    T.KT.K